【シリーズ:腸の問題を考える第2回】血が“漏れる”のか、“押し出される”のか――腸出血を中医学で分類する

血が“漏れる”のか、“押し出される”のか――腸出血を中医学で分類する

腸疾患で読者がいちばん不安になる症状の一つが「血」です。便に血が混じる、粘液がからむ、トイレが赤くなる。西洋医学では炎症や潰瘍、血管の問題などを確認しますが、中医学はそこにもう一段の問いを立てます。
「なぜ、血はそこから出たのか?」
同じ血便でも、体の内部で起きている“しくみ”が違えば、養生の方向も変わるからです。


1)陰陽でみる:漏れる出血(陰)/迫る出血(陽)

まず最初の分類は陰陽です。腸からの出血は大きく二型に分かれます。

陰の出血=「漏れ」

体を支える力が弱って、血を血管内に保てない。中医学で言う統血・固摂が効かない状態です。
特徴は、だらだら続く、疲れると増える、冷えやすい、むくみやすい、息切れ・顔色が薄い、便が軟らかい、下腹が冷える――など。「守りが薄くなって漏れる」イメージです。

陽の出血=「迫る」

熱や昂ぶりが血を押し出す。中医学でいう迫血・熱迫血行のニュアンスです。
特徴は、鮮紅色に近い、痛みや灼熱感、口渇、イライラ、眠りが浅い、臭いが強い、便意が切迫するなど。「熱が強くて押し出される」感じが出ます。

潰瘍性大腸炎は“陰の漏れ”が前景に立つことが多く、クローン病は“陽の迫り”が目立つことが多い――というのが前回の地図です。ただし現実には、陰の土台が崩れたところへ陽の熱が乗る、あるいはその逆もあります。だから分類は「決めつけ」ではなく、今どちらが主役かを見抜くための道具です。


2)臓腑でみる:誰が守れず、誰が熱を生んだか

次に臓腑で“犯人捜し”をします。腸出血を説明する臓腑は、主にこの5つです。

①脾:統血できない(脾不統血)

脾は「血を統べる」。つまり血が“道を外れないように”管理する働きがあります。
食後に眠くなる、胃もたれ、軟便、だるさ、甘い物がやめられない、舌苔が厚い――こうした脾の弱りが強いと、腸粘膜の修復も追いつかず、出血が長引きやすい。

②腎:固摂できない(腎虚・下焦不固)

腎は下を固め、漏れを防ぐ“栓”の役です。
下腹の冷え、腰のだるさ、頻尿、夜間尿、むくみ、足の冷え。こうした腎の弱りが絡むと、腸の症状は「慢性化」「再燃」を繰り返しやすくなります。

③心:火が強く上下が乱れる(心火・水火不済)

心火が強いと、上は熱く興奮し、下は潤いが足りず、下焦が守りを失うことがあります。
焦燥感、動悸、眠れない、夢が多い、顔がほてる。こうした“上の火”と腸の出血が連動している人は案外多い。

④肝:気が暴れて血を動かす(肝鬱化火/肝陽)

肝は気機(気の流れ)を主ります。ストレスが長いと、気が詰まり、やがて熱に転じ、血を乱しやすい。
「仕事の山」「怒り」「我慢」のあとに悪化する、という人はここが要チェックです。IBS的な腹痛と血の問題が同居する人にも多い。

⑤肺:宣発粛降が乱れて内に熱がこもる(肺虚→内熱)

肺は“上”の臓ですが、実は腸にも深く関わります。肺の宣発粛降が弱ると、水道が滞り、内側に熱がこもり、結果として腸の炎症が抜けにくくなることがあります。皮膚の乾燥、咳、鼻の不調が腸と連動する場合は、この視点が役立ちます。


3)病因でみる:外から来たのか、内から生まれたのか

三つ目は病因です。

  • 外因(外邪):湿熱・寒湿・疫毒など。急性発症、食あたり様、発熱、臭い、粘液が強いなどがヒント。

  • 内因(飲食・労倦・情志):食べ過ぎ、糖質過多、冷飲、睡眠不足、ストレス過多。慢性化、再燃、疲労で悪化がヒント。

腸疾患は、この外因と内因が“入れ替わり”ながら長期戦になりやすい領域です。最初は外邪でも、長引くと脾腎が弱り、そこへ熱が乗る。あるいは虚が先で、ちょっとした飲食で湿熱が起きる。ここを整理できると、養生の優先順位が明確になります。


まとめ:血便は「色」より先に「しくみ」を見る

腸の出血は、
①漏れる(陰)/②迫る(陽)
をまず見分け、次に
脾・腎・心・肝・肺のどこが主因か
そして
外因か内因か(混在か)
を重ねて読む。これが中医学の分類です。

次回は、この分類をさらに実用的にします。
血の色(鮮紅/暗紅)・粘液・痛み・便意の切迫・冷え・口渇・舌象など、読者が“自分の傾向”を掴める観察ポイントに落としていきましょう。

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