管理栄養士が見た「がんの陰陽タイプ」— 食事と体質から読み解く中医学の視点
長年、病院で栄養指導をしてきましたが、がんという病気ほど「体質差」が大きい疾患はありません。同じ食事をしていても、同じ治療を受けていても、体が示す反応は人によってまったく違います。
近年は、西洋栄養学に加え中医学の知見を取り入れることで、その“体質差”をより的確に捉える必要性を感じています。今回ご紹介する「がんの陰陽タイプ」という考え方は、食事療法を組み立てるうえでも非常に役立つ視点です。
1. 中医学では、がんは「陽」と「陰」に分かれる
今中先生の考え方では、がんの成り立ちを「陽のタイプ」と「陰のタイプ」の2種類に分類します。これは、管理栄養士として患者さんを見てきた私の実感とも一致しています。
🌞 陽のタイプ(熱・乾燥・濃縮)
- 高血圧
- 糖尿病
- 体臭・口臭が強い
- 汗かき
- 赤い舌
- のぼせ、興奮しやすい
- こってり・甘い物が好き
栄養学的に言えば、「代謝が過剰で、エネルギーが余り、体内で“熱化”が起きやすい体質」です。植物で言えば“枯れるタイプの劣化”。体液が濃縮され、細胞が乾燥し、その延長線上に炎症やがん化が起こりやすくなります。
🌙 陰のタイプ(湿・むくみ・漏れ出し)
- 貧血、低血糖
- 冷え性
- むくみやすい
- 汗が出にくい
- 舌に歯形がつく
- 倦怠感、疲れがとれない
- 頻尿
- 水分をたくさん摂る習慣がある
こちらは、「エネルギー不足で、水分過剰、代謝が弱い体質」です。植物で例えれば“腐るタイプの劣化”。体液が漏れ出したり停滞することで細胞が腐敗し、がん化に向かいやすくなると中医学では捉えます。
2. 管理栄養士として見た「がん体質の食の問題点」
中医学の視点を取り入れると、食事の見直しは“カロリー”だけでは不十分だと気づきます。タイプ別に、問題になりやすい食習慣を整理してみます。
▶ 陽タイプの問題点:熱を生む食習慣
- 甘い物・炭水化物が多い(白米、パン、スイーツ)
- 動物性脂質が多い(肉の脂身、バター、生クリームなど)
- 早食い・どか食い
- 夜遅い時間の食事が多い
- 食後のデザートが「毎回の習慣」になっている
これらは体に熱を溜め込み、乾燥・炎症を進める食べ方です。特に糖質の過剰摂取は血管内で濃縮現象を起こし、中医学で言う「陽のがん」のプロセスそのものだと感じます。「糖はがんの餌」という表現は、このタイプへの注意喚起としては的を射ています。
▶ 陰タイプの問題点:水分と栄養のアンバランス
- 水分の摂りすぎ(1日2L飲めば健康、と思い込んでいる)
- 運動不足で発汗・利尿が少ない
- 冷たい飲み物や甘いドリンクが多い
- 消化力が弱く、少し食べるとすぐにお腹が張る
- 温かい料理や発酵食品が少ない
中医学で言う“気の固摂作用”が弱まり、血や体液が細胞から漏れやすい状態です。水分過多と代謝の弱さは、栄養学でも「むくみ → 代謝低下 → 疲労 → 免疫低下」の悪循環を引き起こします。実際、むくみやすい患者さんほど、水を「健康のため」と信じて多く飲んでいることを、臨床現場で何度も見てきました。

3. 陽と陰の“タイプ別 食のポイント”
管理栄養士として、以下の「分類に合わせた食べ方」が非常に重要だと考えています。
🌞 陽タイプへの食のアプローチ(体を冷ます・余分な熱を抜く)
- 糖質を減らす(白米、パン、麺類、スイーツなどを控えめに)
- 動物性脂質を控えめにし、魚や植物性たんぱくを増やす
- 野菜中心のメニューを基本にする
- 「冷たい物」で冷やすのではなく、「熱を生みにくい調理法」を選ぶ(蒸す・茹でるなど)
- 食後の果物を“毎回の習慣”にしない
- 味つけは薄味を意識し、辛味・揚げ物・アルコールを摂りすぎない
体の中の「熱・濃縮・乾燥」を和らげ、水分を適度に保つ食事を意識します。
🌙 陰タイプへの食のアプローチ(体の“水滞”を取り除く)
- 水分量を自分の体格・活動量に見合った量に調整する
- 常温〜温かい飲み物を主体にし、冷たいドリンクを減らす
- 温かい汁物や煮込み料理を増やす
- 軽い運動や入浴で発汗と血流を促す
- 味噌・醤油・納豆などの発酵食品を適度に取り入れる
- 生姜、ねぎ、紫蘇など、気の巡りを助ける香味野菜を上手に使う
- 食べ過ぎを避け、消化しやすい量と回数にする
こちらは「水分の停滞・腐敗」を防ぎ、体を内側から温めて代謝を助ける食事です。
4. 中医学×栄養学で見る“がん予防の本質”
食事は単なる栄養補給ではなく、体質を整える「環境づくり」です。陽のがんは熱と乾燥の環境、陰のがんは水滞とエネルギー不足の環境から生まれます。つまり、がんは“体質が作る環境”に大きく左右されるということです。
だからこそ、同じ「健康食」を食べても、効果が出る人と出ない人がいるのです。中医学は、この体質差を「陰」と「陽」という軸で見抜き、それを食事にも応用できる点が非常に優れていると感じます。
5. 今日のミッション
✔ 自分の“陰陽タイプ”を舌でチェックしてみましょう。
- 赤くて乾燥している舌 → 陽タイプ傾向
- 白くてむくみがあり、舌の縁に歯形がある → 陰タイプ傾向
ざっくりとしたセルフチェックですが、これだけでも「自分がどんな食事を優先すべきか」のヒントになります。
まとめ
がんは単なる「細胞の異常」ではなく、体質が作り出した環境の問題でもあります。陽タイプなら熱を減らす食事、陰タイプなら水滞を減らし気を補う食事――体質に合わせて食べ方を変えることで、からだの負担を少しずつ減らしていくことができます。
栄養学と中医学を組み合わせることで、患者さん一人ひとりにより適した“養生の食事”が見えてきます。ヘルモニでは、これからも「体質 × 食 × 中医学」の視点で、がんとの向き合い方をお伝えしていきたいと思います。
【投稿:50代 管理栄養士・元病院勤務M】

