股関節の痛みは「関節」だけの問題ではありません
——五臓と気血の流れから考える中医学的視点——
鍼灸師 田辺です。
臨床に携わって四十年以上になりますが、ここ十数年で特に増えたと感じるのが「股関節の痛み」を訴える方です。
病院では
「変形性股関節症ですね」
「年齢のせいでしょう」
と言われ、湿布や痛み止めで様子を見る。
しかし、痛みが一進一退で、なかなか楽にならない。
そんな相談を受けることが少なくありません。
中医学では、股関節の痛みを単なる関節の摩耗としては見ません。

昔の臨床で、こんな方がいました
60代の女性。
「歩き始めに股関節がズキッと痛む」
「長く座ったあとがつらい」
「でも、レントゲンではそこまで悪くないと言われた」
詳しくお話を伺うと、
- 冷えやすい
- 胃腸が弱く、疲れると食欲が落ちる
- 夜、脚がだるくて眠りが浅い
という背景がありました。
ここに、中医学的なヒントが隠れています。
中医学で見る「股関節」はどこに属する?
股関節は、経絡でいうと主に
- 肝経
- 胆経
- 腎経
と深く関わります。
特に重要なのが、肝と腎です。
● 肝:筋と関節をつかさどる
肝は「筋を主る」と言われます。
筋・腱・関節のしなやかさは、肝の働きが土台です。
ストレスが多い
運動不足や、逆に使いすぎ
イライラしやすい
こうした状態は、肝の気の巡りを滞らせ、股関節の動きを悪くします。
● 腎:骨と関節の根っこ
腎は「骨を主る」。
加齢とともに腎の力が落ちると、骨や関節の回復力が下がり、痛みが長引きます。
「年齢のせい」と言われる正体の多くは、実は腎の弱りなのです。
「冷え」と「湿」は、股関節の大敵です
股関節は冷えやすく、重だるさが溜まりやすい場所です。
- クーラーの冷え
- 雨の日に痛む
- 朝が一番つらい
こうした特徴があれば、中医学でいう風・寒・湿が関与しています。
特に女性では、「冷え+血の巡りの悪さ(瘀血)」が重なると、痛みが固定化しやすくなります。
美容・フィットネス目線で見ると?
股関節が硬い方は、
- お尻が垂れやすい
- 下腹が出やすい
- 歩幅が狭く、代謝が落ちる
という傾向があります。
つまり、股関節は美容と体力の要(かなめ)。
中医学では、股関節の動き=気血の巡りの良さ。
痛みを我慢しながら運動するより、まずは「巡る身体」に戻すことが先決です。
鍼灸では、どこを見るのか
私の臨床では、
- 股関節そのもの
- 腰(腎の反応)
- お腹(脾胃の状態)
- 足の冷えと脈
を必ず確認します。
五腧穴で言えば、肝経・腎経の兪穴、合穴を丁寧に使うことで、関節そのものを触らずに痛みが変わることも珍しくありません。
これは、「部分ではなく、全体を診る」中医学ならではの考え方です。
股関節の痛みは、身体からのメッセージ
股関節の痛みは、
- 無理をしていませんか
- 冷やしすぎていませんか
- 休めていますか
という、身体からの問いかけでもあります。
もし
「レントゲンでは異常が少ないのに痛む」
「良くなったり悪くなったりを繰り返す」
そんなときは、五臓と気血の視点を一度取り入れてみてください。
中医学は、痛みの奥にある体質を読み解く医学です。
股関節が楽になることは、人生の歩幅が広がることでもあります。
無理せず、しかし諦めず、身体と対話するきっかけになれば幸いです。
—— 鍼灸師 田辺
