入浴は中医学の“もうひとつの処方箋”

冬のお風呂養生─ベテラン鍼灸師が語る「体を本当に温める入浴」

冬になると「お風呂に入ってもすぐ冷える」と訴える方が増えます。
これは、ただ温め方が足りないのではなく、体の内にある“温める力”が弱っていることが多いのです。

臨床の現場でも、長年の冷え性で悩む方の多くは、外側を温めようと必死になるあまり、
肝心の気血の巡りと腎陽の働きが落ち込んでいるケースをよく見てきました。

■ 昔の臨床でこんな方がいました

ある冬、60代の女性。
「毎晩お風呂に入っているのに、布団に入る頃にはもう手足が冷えている」という訴えでした。

見ると、顔色は白く、脈は沈んで弱い。
典型的な腎陽虚(じんようきょ)のタイプ。

入浴のしかたをうかがうと、熱いお湯にさっと浸かって汗をかき、すぐ出る——という習慣。
これは一見温まりそうですが、実は逆効果になることがあります。

■ 中医学から見る「本当に温まるお風呂」

中医学では、熱の質と深さがとても重要です。
たとえお湯が熱くても、ただ表面を温めただけでは、体の深部=腎の領域には届きません。

そのため、冬のお風呂は以下を意識するとよいでしょう。

  • お湯は 38~40℃の“ぬるめ”
  • 15分以上ゆったり浸かる(深部を温める)
  • 肩まで浸かる全身浴を基本にする
  • 上がったらすぐに首・腰を冷やさない

とくに「ぬるめで時間をかける」という点がポイント。
深部にじんわりと熱を届け、腎陽を助ける働きがあります。

■ さらに温まるツボ:命門と腎兪

腰の中央にある命門(めいもん)と、その左右にある腎兪(じんゆ)は、
体を温める力=腎陽を強める要のツボです。

入浴後にドライヤーの温風で30秒ほど温めるだけでも、
ぐっと温かさの持続力が変わります。

■ まとめ:冬のお風呂は“深く温める”が正解

・熱いお風呂で一気に温まる
・汗をかいて体を温めた気になる

——これは実は、体の表面だけが温まり、
むしろ深い冷えを悪化させてしまうことがあります。

冬こそ、ゆっくり温まる養生を。
体の内側から温かさを育てることで、
冷えも疲れも大きく変わっていきます。

投稿者:田辺 (鍼灸師)